出展者インタビュー Vol.5
こんにちは。新しい年を迎え、アーカイブ公開も残りわずかとなりました。
この展示会では、私、松澤が書いた「I love you」の翻訳文(候補は33編)から、それぞれ好きなもの・気になったものなどを選んで各作品のタイトルにしています。
なぜその文を選んだのか、その文を読んでどう感じたのかの2点について、出展メンバーに話を聞いています。
5回目となる今回は安部晶枝さん。選んだ文は「私がこの想いを伝えたら、きっと君は『私も』と笑うのだろうけど。それは残酷なことに、不等号。」「とうに息はできなくなっているのに、未だたどり着かない海底に向かって目を閉じた。」です。
「私がこの想いを伝えたら、きっと君は「私も」と笑うのだろうけど。それは残酷なことに、不等号。」
①なぜその文を選んだのですか?
この文の内容は恋愛経験の有無に関わらず通りうる道です。約20年間も恋愛に縁がなかった私ですが、この文は私と恋愛との溝を超えてしまったので1番に気になりました。
②その文を読んでどう感じましたか?
その状況の気持ちがストレートに文字になっているところがこの文で一番好きなところです。歩いている途中や作業中、または本人の前でもポロッとこぼしてしまいそうな本音です。展示作品の他に、「残酷なほどに、不等号」という部分に重りが入っていて文が真下にストンと落ちていくようなイメージがありました。この部分はどのように相手と気持ちがすれ違っているのか解釈する肝だと感じ、その言葉の意味を大事にしながら作品を制作しました。
✉松澤より
この文章は、心情を語っている他の文章とは違い、状況を淡々と描いています。実は、以前書いた小説の二人の登場人物をイメージしながら書きました。どのような立場の「二人」になるかはいろいろな解釈があると思いますが、安部さんの作品を見たとき、「あ、私が思い描いていた二人だ」と思いました。容姿がどうこうではなく、二人の中にある「好き」という感情の違いが、ずっと見てきたものかのようです。お互いちゃんと「好き」であるはずなのに、視線が合わない二人のもどかしさを感じます。
「とうに息はできなくなっているのに、未だたどり着かない海底に向かって目を閉じた。」
①なぜその文を選んだのですか?
海底に沈んでいく美しい景色と、海の中で息ができなくなっている心情が文にきれいに畳み込まれていて、それを絵に展開するのがとても楽しそうだと思い選びました。
②その文を読んでどう感じましたか?
心に身体があったとして、その身体のストレスを考えると地獄のような内容ですが、そのストレスについて言及するのをクソリプにする、沈むしかなかった理由に想像が掻き立てられる豊かな文の作品だと思いました。鑑賞者に身体と景色の体験をしてもらいたくて、絵の中を覗き込むような仕掛けを鏡を使って作ってみました。今回は浦島太郎がもし玉手箱を開けないとしたら...と想像した作品です。
✉松澤より
この文章は「恋に溺れるってこういうことかな」と思いながら書いたものです。興味が薄れたり、好きと嫌いが錯綜したりすることはありますが、「好き」という感情そのものに底は見つからないのではないでしょうか。すでに溺れているのに、まだ沈んでいく。その苦しさ、少しの怖さ、それから心地よさを描きました。何か(好きの対象)の存在が自分の中に沈んでいく、あるいは広がっていくことには、言葉ではうまく表すことのできない心地よさがあると思います。
浦島太郎というところがなるほど、と思いました。海に沈んだからこそ出会える美しさの象徴とも言える話です。覗き込んで見る作品は、意識が朦朧とする中でうっすら目を開くような、おぼつかない感覚に支配される作品だと思いました。
今回のインタビューは以上です。さまざまな気持ちの折り重なった作品を、こうした形で紐解けるのは面白いな、と思います。
残りはあと一人。最後までお付き合いいただければ幸いです!
松澤まど花
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